大判例

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東京地方裁判所 昭和45年(行ウ)167号 判決

原告

株式会社毎日新聞社

右代表者

梅島貞

右訴訟代理人

西迪雄

被告

東京都地方労働委員会

右代表者

塚本重頼

右訴訟代理人

馬場正夫

外二名

参加人

日本新聞労働組合連合

右代表者

加藤親至

参加人

毎日新聞労働組合

右代表者

志垣良太

外二名

右四名訴訟代理人

小島成一

外二名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

〔請求の趣旨〕

一  被告が、申立人日本新聞労働組合連合、同毎日新聞労働組合、同戸塚章介および同磯貝佳身(いずれも本件参加人)、被申立人株式会社毎日新聞社(本件原告)間の都労委昭和四三年(不)第七五号不当労働行為申立事件について、昭和四五年七月七日にした別紙命令書記載の命令を取り消す。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

〔請求の趣旨に対する答弁〕

主文と同旨

第二  当事者の主張

〔請求原因〕

一 本件命令

被告は、請求の趣旨第一項掲記の不当労働行為申立事件について、昭和四五年七月七日、別紙命令書記載の命令(以下、その当事者の表示は、主に命令書理由第1、1(1)から(5)までに記載されている略称による。)を発し、同月一六日、その命令書の写しを原告に交付した。〈後略〉

理由

一本件命令とその当事者

請求原因第一項の事実および命令書理由第1、1(1)から(5)までの事実は、次に訂正、補充する点を除き、当事者間に争いがない。すなわち、〈証拠〉によれば、戸塚は昭和三四年東京支部青年部副部長、磯貝は昭和三四年、同三五年中部支部青年部書記、昭和三六年、同三七年同支部青年部委員で、昭和四〇年、同四一年には本部副書記長を兼任したことが認められる。

二「組合は、労組法所定の被救済資格を有しない。」という原告の主張について

行政事件訴訟法第一〇条第一項は、「取消訴訟においては、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができない。」と規定している。その立法趣旨は、取消訴訟の目的は行政処分によつて原告が受けている法益の侵害を救済することにあるから、この訴訟において、原告がその対象となる行政処分に存する違法事由を主張し得る範囲は、自己の法律上の利益に関係のあるものに限られ、これに関係のないものを主張することは取消訴訟の目的に反し許されない、というにある。

ところで、労組法第五条は、労働委員会に対し、同法第二条および第五条第二項の要件を欠く労働組合の救済申立てを拒否すべき義務を課しているが、この義務は、労働委員会が、労働組合がこの要件を具備するように促進するという国家目的に協力することを要請されている意味において、直接、国家に対し負う責務にほかならず、申立資格を欠く労働組合の救済申立てを拒否することが、使用者の法的利益の保障の見地から要求される意味において、使用者に対する関係において負う義務ではないと解すべきである(最高裁判所昭和三一年(オ)第五八号同三二年一二月二四日第三小法廷判決、民集一一巻一四号二、三三六頁参照)。

したがつて、被告が労組法所定の被救済資格を有しない組合に対して救済を与えたという原告主張の違法事由は、「自己の法律上の利益に関係のない違法」を理由とするものであるから、前記行訴法の規定に牴触し、原告が本件命令の取消しを求める理由として主張することはできない。

三組合の教宣活動と会社施設の利用

当事者間に争いのない事実に、〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができる。

就業規則第七条は「従業員は左の各号を守らなければならない」として、その第一一号に「会社施設内で許可なく集会、演説あるいは宣伝行為をしないこと。」と規定している。また、労協第一〇三条は、「会社は組合が組合活動に必要な会議室その他の諸施設を利用するときはできるだけ便宜を与える、ただしそのつど会社の承認をうける」と規定している。東京、中部の各本社では、別表Ⅰ・Ⅱ掲記のとおり、組合行事として会社施設を利用して行なわれた映画・スライドの上映事例および学習会の事例(ただし、別表Ⅰの②中部本社「ホ」のスライドの上映事例の一部〔二階会議室〕および別表Ⅱの②中部本社「ロ」、「ハ」、「ニ」、「ヘ」、「チ」、「リ」、「ヌ」の学習会の事例は、社外の任意団体である名古屋毎日婦人文化センターの管理・運営する社外施設を利用したものであつて、会社はその利用申込みの手続を仲介したにすぎないから、これらの事例を除外する。)があり、また、組合行事として行なわれたものではないが、参加人ら主張第五項3のとおり、映画・スライドの上映事例がある。中部本社の学習会の事例は、外部から講師を招いて行なわれた学習会だけであるが、組合員だけの学習会を含めると、昭和四一年には二三回、昭和四二年には一一回の学習会が行なわれている。組合は、参加人ら主張第五項1のような必要から教宣活動の一環として学習会活動、映画などの視聴覚教宣活動の拡大・強化に取り組み、昭和三六年度以降、毎年度の組合運動方針案でその必要性が指摘されている。学習会、視聴覚教宣の活動については、参加人ら主張第五項2のような新聞社に特有の要因もあつて、組合として会社施設利用の必要性が大きい。東京、中部の各本社とも、組合が会議室の利用を申し込む場合には、申込書に日時、会合名(班会議、合同分会委員会など)、人員等を記入して総務局庶務部(東京本社の場合)または総務部庶務課(中部本社の場合)に提出し、会社の許可を受けていた。休憩室において映画・スライドを上映する場合には、その上映について届出をしたことはなく、会社からこれを求められたこともない。組合は、映画などの上映および学習会を行なう場合には、そのことを組合員に周知させるために、事前に組合掲示板に掲示をしたり、組合ニュースなどで宣伝をし、事後には組合の機関紙、議案書などに活動報告としてその模様や講師の講演要旨などを掲載している。会社では、職制たる地位を有する副部長、課長、副課長も組合員である。別表Ⅰの②中部本社「ハ」の映画の上映事例は、組合が会社(販売部長)に対し映写機の貸与および映写技術の派遣を求め、会社がこれに応じて上映された。また、別表Ⅱの②中部本社「ホ」の学習会の事例は、組合が会社(人事課長)あてに学習会であることや講師の名前を明記した「通知書」を提出しており、同じく「ヨ」、「レ」の学習会の事例は、組合が会社(総務部長)あてに講師の名前を明記した「社内放送のお願い」と題する文書を提出し、依頼のとおり放送された。以上に記載した映画・スライドの上映事例および学習会の事例について、会社は、別表Ⅱの①東京本社「ネ」の学習会(昭和四二年一〇月一四日開催)の事例について、佐野人事部労務課長が後日東京支部書記長に対し無届けの講演であるとして口頭で抗議したことがあるが、そのほかの事例については、後述する別表Ⅱの②中部本社「ウ」の学習会の事例を除き、会社が事前または事後を問わず異議を述べたり、禁止措置をとつたりしたことはない。しかし、東京本社では、昭和三六年、組合が三六協定に関する学習会および政暴法に関する学習会をそれぞれ行なつたとき、会社は、「外部講師はいけない」と異議を述べた。また、中部本社では、昭和四一年一〇月一八日、中部支部青年部が企画した「ベトナム戦争と労働組合」についての学習会(講師原昭午)について、会社は、「政治的なにおいがする。」、「外部から講師が入る学習会は従来も認めていない。」ということで会議室の利用を拒否し、その後、同月二一日、中部支部執行委員会が「ベトナム反戦労連決意投票、諸要求貫徹決起集会」を三階大会議室で行なおうとしたところ、会社は、「ベトナム反戦」という文字に政治的要素が含まれているので会議室を貸せないと言つて、その文字を抹消させた。さらに、昭和四二年九月二七日および同年一〇月二三日、中部支部青年部が計画した地域の労働者を交えた人生問題の学習会について、会社は、「外部の人が入る会合は企業破壊につながる。」、「青年部は会社と組合との利害は一致しないと主張しているので、会議室を貸すことはできない。」などということで、会議室の利用を拒否した。別表Ⅱの②中部本社「ワ」の学習会(昭和四三年二月六日開催)の事例は、会社が「外部から講師が入ることは従来も認めていない。外部から講師が入れば、企業破壊につながるから駄目である。」と言つて、一たんは許可した三階大会議室の利用を取り消したため、組合は、その会合は「春闘、賃上げ、合理化を討論―合同分会委員会、東海地連学習会(国鉄会館)」と表示を書き換え、会社は、事実上これを認めて行なわれた。

以上の事実を認めることができ〈証拠判断省略〉る。

四中部本社印刷部休憩室におけるベトナム映画の上映

〈証拠〉によれば、命令書理由第1、3(1)の事実が認められる。

命令書理由第1、3(2)の事実は、当事者間に争いがない。

命令書理由第1、3(3)の事実は、磯貝が、柴田鉛版課長から職場班会議を休憩室で開くことの許可を受けたこと、同会議の席上で映画の上映を行ないたいと提案し、皆の賛同を得たこと、その賛同を得たうえ上映準備に取りかかつたことおよび同人が同課長に呼ばれて受けた申入れの内容を除き、当事者間に争いがない。〈証拠〉によれば、右争いのある部分について命令が認定するとおりの事実(ただし、組合が印刷部休憩室を職場班会議など職場集会に利用する場合には、従来から支部執行委員または代表委員が印刷部事務室の部直責任者またはデスク〔副課長〕にその旨口頭で告げるだけで例外なく利用を認められていた。)および当日の職場班会議は組合員の義務参加の集会であつたことが認められる。〈証拠判断省略〉

五東京本社印刷部輪転課休憩室におけるベトナム映画の上映

命令書理由第1、4の事実は、東京支部青年部が映画の上映について支部執行委員会の賛同を得たこと、戸塚が輪転職場で同好者を集めて映画を上映しようとしたこと、鈴木輪転課副課長が午後一〇時四〇分ごろと翌七日午前零時ごろの二回戸塚を呼んだことおよび同副課長が戸塚に上映中止を申し入れた理由の内容を除き、当事者間に争いがない。〈証拠〉によれば、右争いのある部分について「戸塚が輪転職場で同好者を集めて映画を上映しようとしたこと」を除く命令が認定するとおりの事実のほか、戸塚は、支部執行委員として職場集会を開く権限に基づき、輪転、用紙職場組合員の任意参加の職場班会議を開いたこと、組合が輪転課休憩室を職場班会議など職場集会に利用する場合には、従来から支部執行委員または代表委員が印刷部事務所の部直責任者またはデスク(副課長)にその旨口頭で告げるだけで例外なく利用を認められていたことおよび印刷部では、輪転課第二休憩室のほか、同課第一休憩室、仮眠室があることが認められる。〈証拠判断省略〉

六磯貝、戸塚のけん責

当事者間に争いのない事実に、〈証拠〉によれば、命令書理由第1、5(1)の事実(ただし。九月二六日の取締役会とあるのを九月二四日と訂正する。戸塚は昭和四三年七月一七日、磯貝は同年九月二〇日の賞罰委員会に出席している。)のほか、戸塚に対しては、同年九月一六日、戸村輪転課長が電話で「君があやまれば、私が職を賭しても賞罰委員会で不問に付すよう努力する。」と言つたことおよび東京、中部の各本社賞罰委員会は、戸塚、磯貝両名の所為を前記就業規則第七条第一一号の規定に違反し、第七〇条第九号の「会社または職場の統制秩序等をみだしたとき。」に該当すると判断したことが認められる。

命令書理由第1、5(2)および(3)の事実は、当事者間に争いがない(ただし、九日二六日の取締役会とあるのを九月二四日と訂正する。)。

七「労協解釈専門委員会」における映画上映問題の取扱い

命令書理由第1、6(1)および(2)の事実は、会社が昭和四三年九月二八日(第五回)の労協解釈専門委員会の席上、会社提案について組合本部執行委員会が早急に結論を出すよう催促したことを除き、当事者間に争いがない(ただし、六月二三日〔第三回〕とあるのは、〈証拠〉により、六月二七日の誤りと認める。)。〈証拠〉によれば、右争いのある部分について命令が認定するとおりの事実が認められる。

八東京支部に対する会食室、会議室の利用拒否

命令書理由第1、7(1)の事実は、昭和四三年八月二〇日午前九時三〇分ごろ、高橋厚生部副部長が組合のビラで会合が学習会であることを知つたこと、同副部長が「労組の会議なら労務課を通じて会議室を利用して下さい。」と申し入れたことおよび佐野人事部労務課長が「学習会が組合活動なら労務課に使用許可を求めてくるのが筋である。」と答えたことを除き、当事者間に争いがない。〈証拠〉によれば、右争いのある部分について命令が認定するとおりの事実が認められる。

命令書理由第1、7(2)の事実は、同年九月七日、九日および二一日、組合が印刷部会議室の利用を申し込んだが、会社が休憩室に使用変更してきたこと、ならびに、佐野人事部労務課長が命令が認定するような趣旨のことを告げたことを除き、当事者間に争いがない。〈証拠〉によれば、佐野課長は右のような趣旨のことを告げたことが認められる。

命令書理由第1、7(3)の事実は、当事者間に争いがない。

ところで、会食室が飲食を伴う会議であれば個人が申し込んでも原則としてその利用が認められる場所であることは、当事者間に争いがない。〈証拠〉によれば、組合が会食室を利用する場合には、厚生部に個人名で申し込み、申込書に日時、会食室名、会合名、人員等を記入して提出しており、当時は人事部労務課に組合名で申し込むような手続がなかつたこと、組合の利用例は、昭和四三年八月二〇日の前約五か月間をとつてみると、新聞労連、在京婦人部懇談会を始めとして一六回あること、組合は、会食室での組合活動について組合ニュースに掲載したりしていること、これに対し、会社が異議を述べたり、禁止措置をとつたりしたことはないことおよび厚生部が会議の内容などをせんさくしたこともなかつたことが認められる。〈証拠判断省略〉。〈証拠〉に「会食室は会議、部会、懇親会などで飲食を伴う場合に使用する。」、「普通の会議や集会には利用できない。」と記載されていることは、当事者間に争いがない。〈証拠判断省略〉。

九中部支部に対する会議室、休憩室の利用拒否

当事者間に争いのない事実に、〈証拠〉によれば、命令書理由第1、8(1)から(3)までの事実が認められる。

一〇本件けん責処分と不当労働行為の成否

会社は、戸塚、磯貝両名の前記映画の強行上映は、いずれも就業規則第七条第一一号の「会社施設内で許可なく集会、演説あるいは宣伝行為をしないこと。」との規定に違反し、第七〇条第九号の「会社または職場の統制秩序等をみだしたとき。」に該当すると判断し、右両名に対し本件けん責処分を発令したのである。

しかし、東京、中部の各本社では、組合が休憩室を職場班会議など職場集会に利用する場合には、従来から支部執行委員または代表委員が部直責任者またはデスク(副課長)にその旨口頭で告げるだけで例外なく利用を認められていた(原告も、会社が職場班会議などについて一般的にその利用を許可していると主張している。)。そして、休憩室(休憩所を含む。)では、これまで多数の映画・スライドがその上映について届出をすることなく上映されており(別表1の①東京本社「ヲ」、「ワ」、「ヨ」および②中部本社「ホ」、「ヘ」、「チ」の事例。これらは、いずれも職場集会の中で上映されたものである。また、東京本社昭和四二年八月および同年一一月、中部本社では昭和四〇年七、八月ごろ、昭和四二年三、四月ごろおよび同年一月から昭和四三年五月までの間、趣味の映画・スライドが上映されている。)、これについて、会社は、その相当数の事例を知つていながら(このことは、前認定の事実から推認される。)異議を述べたり、禁止措置をとつたりしたことはなかつたのである。このことは、休憩室で開かれた職場集会の席上において、組合活動の一環として映画・スライドの上映がなされるとしても、これが休憩室の物的設備に損傷を与えるおそれがあるとか、他の利用者の自由な利用を著しく妨げる等休憩室本来の設置目的に反しない限り、会社は、労協第一〇三条ただし書の規定にかかわらず、映画などの上映をなんら制限しないという労使間の慣例が前記上映強行当時すでに成立していたことを示している。したがつて、戸塚、磯貝両名の映画の上映行為についても、これらがいずれも職場班会議の席上組合活動の一環としてなされたものである以上(中部本社北村人事課長および東京本社戸村輪転課長は、映画の上映を禁止する理由として、「政治活動の疑いが強い」点を強調しているが、本件の全証拠を検討しても、前記映画の上映が、直ちに正当な組合活動の範囲を逸脱し、「政治活動の疑いが強い」行為と認めるには足りない。)、休憩室の設置目的に反するという特別の障害事由が認められない限りは、会社は、映画の上映を禁止することはできない。

本件において、休憩室の利用方法に対し制約を加えなければならなかつた特別の事情が存在したことについては、その主張・立証がない。かえつて、中部支部の場合は組合員の義務参加の集会であり、東京支部にあつては、任意参加の集会ではあつたが、別に輪転課第一休憩室、仮眠室があり、休憩を取ろうとする従業員にとつても、映画の上映が妨げとはならなかつたことが明らかである。それにもかかわらず、しかも、これまで届出を求めたこともなかつたのに、会社は、映画の上映について届出がないからなどという理由を持ち出し、戸塚、磯貝両名の映画の上映行為を禁止しようとしたのである。この会社の措置は、従来の慣例に反し、かつ、なんらの合理的な理由もなく行なわれたものであり、畢竟、右両名の正当な組合活動、適法な職場班会議に干渉し、組合の教宣活動の目的・内容のいかんによつては、会社の一方的な判断・評価によつて会社施設利用の許否を決め、ひいて組合の活動一般に不公正な干渉をはかろうとするものということができ、両名が会社のこのような指示に従わなかつたことを理由として、両名に対し懲戒を加えることは許されない。

したがつて、本件けん責処分は、労組法第七条第一号、第三号の不当労働行為に当たるというべきである。

一一東京、中部の各支部に対する会議室等の利用拒否と不当労働行為の成否

1  会社は、昭和四三年八月二〇日、東京支部青年委員会が計画した「合理化と権利問題」と題する学習会について、栗原青年部長が先に厚生部に個人名で申し込み、その了承を得たにもかかわらず、東京本社会食室の利用は拒否した。

しかし、会食室は、飲食を伴う会議であれば個人が申し込んでも原則としてその利用が認められる場所である。組合が会食室を利用する場合には、厚生部に個人名で申し込んでおり、当時は人事部労務課に組合名で申し込むような手続がなかつたし、組合の利用例は、右の会食室利用拒否事件前約五か月間をとつてみると、一六回もある。そして、組合は、会食室での組合活動について組合ニュースに掲載したりしていたのである。これによれば、会社は、右のような態様で組合が従来から会食室は利用していることを十分知つていたものと推認される。それにもかかわらず、佐野人事部労務課長は、「学習会に会食室を利用することは、その目的に反する。学習会が組合活動なら労務課に使用許可を求めてくるのが筋である。」、「学習会に会議室を貸したことはないし、名目はどうあれ学習会であることが明らかであるから貸すわけにはいかない。」と述べたのである。原告は、会食室の利用については、従業員に利用されるものとして一定の利用条件を設けていると主張するが、その利用条件を定めた文書である〈証拠〉の記載内容を見ても、組合の利用が会食室の利用条件を充足しないということの根拠となるような文言は見当たらない。また、会社が組合に対し右文書の内容を説明したような事実も認められないのである。

2  会社は、東京支萎執行委員会が同年九月二七日に行なうことを計画した用紙課所属の組合員斎藤某(弁論の全趣旨により「斎藤和宏」と認める。)の世界青年学生平和友好祭の報告集会およびスライドの上映について、東京本社二階大会議室Bで報告集会を行なうことは認めたが、スライドを上映することを拒否した。佐野人事部労務課長は、その理由について、「スライドの上映については、ベトナム映画問題(磯貝、戸塚のこと)が係争中でもあり、これに関連し労協解釈専門委員会で組合視聴覚教宣活動における会社施設利用に関する統一見解が出るまでやめて欲しい。」という趣旨のことを告げている。ところが、会社は、同年九月七日、九日および二一日の三回、用紙課と輪転課の休憩室で同じスライドを上映することを認めているのである。この点について、原告は、その職場が斎藤和宏の出身職場であり、また、所定の利用申込みをしているので、特に好意的に配慮したことによると主張するが、それ自体採るに足りない理由である。

3 会社は、中部支部印刷分会が同年五月一四日、一五日に行なうことを計画した一九六八年運動方針案の学習会について、中部本社会議室の利用を拒否し、折衝の結果、運動方針案についての学習会であるということで、ようやく、その利用を認めた。北村人事課長は、右折衝の際、「会社は従来から学習会のための会議室使用は認めていないので、この件の申込みについて会議室を貸すことはできない。」、「学習会は労協九二条(組合の集会行事)の範囲外であるし、従来から言つているように、同一〇三条(便宜供与)には無制限に貸すとは書いていない。もし、今までそのようなことをしていたとすれば、組合が無断で使用したか虚偽の届出をして使つていたのだろう」などと述べている。

4  会社は、中部支部執行委員会が同年七月二六日に行なうことを計画した原水禁討論集会およびスライドの上映について、中部本社三階大会議室で討論集会を行なうことは認めたが、スライドを上映することを拒否した。北村人事課長は、「申込手続に誠意は認められるが、東京では、ベトナム映画問題で賞罰委員会が開かれており、労協解釈専門委員会で上映問題を討議することになつている。」ということなど、前記東京本社佐野人事部労務課長とほぼ同旨の理由を挙げた。

5  会社は、中部支部青年部が同年一一月六日に行なうことを計画した前記斎藤和宏の世界青年学生平和友好祭の報告集会について、一たんは中部本社第五会議室の利用を許可しながら、後になつてスライドなどの上映も行なわれる可能性が極めて濃いと判断し、結局、報告集会を行なうことは認めたが、スライドを上映することを拒否した(活版部休憩室、輪転休憩室の利用についても同様である。)。熊埜御堂活版部長は、その理由について、「報告集会はよろしいが、八ミリとかスライドの上映は、労協解釈専門委員会で話し合つている段階だから遠慮して欲しい。」などと前記東京本社佐野人事部労務課長および中部本社北村人事課長とほぼ同旨のことを告げた。

6  原告は、会社は労協第九二条を会社施設利用の許否を決するについて原則的基準としており、学習会の開催、映画・スライドの上映などを含む組合の教宣活動は基本的あるいは重要組合活動ではなく、その範囲・頻度が不確定であり、また、増加する可能性があるなどのため、施設管理権の原則に基づき便宜供与の対象としないことにしている旨および会社施設をどのような範囲・手続によつて組合に利用させるかは会社の権限に属することであつて、すべて会社の経営上の判断に属する旨を主張し、右1ないし5に記載した東京、中部の各支部に対する会議室等の利用拒否を根拠づける主たる理由としている。

〈証拠〉によれば、労協第九二条の規定は、次のとおりであり、同条掲記の集会および職場集会などに映画・スライドの上映会とか学習会が含まれていないことは明らかである。

第九二条 会社は労働時間内でも、組合が正規の手続きをふんで行なう左記各号の集会およびその他の組合活動についてはこれを認める、ただしその時間の賃金は支払わない

一、中央大会および支部大会

二、中央委員会、本部執行委員会

三、代表委員会、支部執行委員会

四、その他組合規約にもとづく各種の委員会

五、特定の組合員(組合機関にあげられた役員、委員)が必要な組合業務に従事する場合

六、組合が加盟あるいは提携する友誼団体および他組合の集会、行事に参加する場合

それなのに、前認定のとおり、過去一〇年前後にもわたり、組合行事として会社施設を利用して行なわれた多数の映画・スライドの上映事例および学習会の事例があり、これらの事例については、若干の例外を除き、会社は、前認定の事実に照らし、右事例の相当数を知つていたと推認されるにもかかわらず、事前または事後を問わず異議を述べたり、禁止措置をとつたりしたことはなかつた。この一事をとらえてみても、会社が労協第九二条を会社施設利用の許否を決するについて原則的基準としているという主張は、たやすく採用することはでき〈証拠判断省略〉ない。

もとより、会社施設を労働組合に利用させるかどうかを決する権限は、究極的には施設管理権者である使用者に属していることは言うを俟たないが、わが国のように企業内組合が通例であるところでは、前記管理権の行使に当たつては、団結権に基づく組合活動に対する便宜供与について十分な配慮が要請される。労協第一〇三条が「会社は組合が組合活動に必要な会議室その他の諸施設を利用するときはできるだけ便宜を与える。ただしそのつど会社の承認をうける」と規定しているのは、前記要請の趣旨に沿つたものといえる。ところで、「そのつど会社の承認をうける」と定められている同条の運用の実態は、第三項において認定したとおりである。これによれば、組合が会社施設を利用して学習会の開催、映画・スライドの上映を行なうについて、会社が事前または事後において異議を述べたり、禁止措置をとつた事例は、東京本社の場合、昭和三六年と昭和四二年一〇月の計三件しかないから、同本社においては、組合の会社施設利用を従来少なくとも黙認ないし受忍していたといえる。他方、中部本社の場合は、以前は東京本社と同一歩調を取つていたが、昭和四一年一〇月以降、「外部講師が加わる」とか「政治的なにおいがする」、「政治的要素が含まれている」ことを理由として、学習会などに対して厳しく規制する姿勢を打ち出し始めたことが看取できる。しかし、「政治的なにおいがする」とか「政治的要素が含まれている」という理由は、あまりにも漠然とした会社側の一方的な評価に陥り易い基準であり、「外部講師」云云といつても、なんら問題とされなかつた事例も少なくないから、全くケース・バイ・ケースで処理されているというのほかなく、このような規制基準による運用が、はたして労協第一〇三条の趣旨に沿つたものといえるか疑問の余地が少なくない。右の規制強化についての問題点と、以上から明らかなように、会社における組合の会社施設利用についての取扱いが、東京・中部の各本社を通じて一貫していないことを考え合わせると、中部本社における昭和四一年一〇月以降看取される態度の変化も、組合の会社施設利用についての従来の黙認ないし受忍するという慣例を変更するまでには至らないと解するのが相当である。

組合の会社施設利用の実態が以上のとおりである以上、組合が行なう映画などの上映およびび学習会について、会社が従来の慣例に反して会社施設の利用を一方的に拒否することは許されず、たとえそれが施設管理権の行使としてななされるものであるとしても、組合に対する便宜供与の拒否をやむを得ないと評価できるだだけの管理上合理的な理由が必要といわなければならない。

本件において、そのような合理的な理由が存在したことについては、その主張・立証がない。かえつて、前記「1」の事例は、先に了承していた会食室の利用を後になつてこれといつた理由もなく拒否したもの、「2」、「4」「5」の事例は、会議室で報告集会等を行なうことは認めながら、労協解釈専門委員会での結論が出るまでは認めないという従来の慣例に反する一方的な理由を挙げてスライドを上映することを拒否したもの、「3」の事例は、会議室の利用は認めながら、組合が自主的に決定すべき学習会の議題を制限したものであつて、いずれも業務上の利用その他会議室等の利用を拒否すべき個別的・具体的な障害事由が存在しなかつたことが明らかである。そうすると、この一連の会社の措置は、施設管理上の必要がないのに、従来から認めていた組合の会社施設利用をある種の組合集会に限つて一方的に禁止・制限したものであるから、施設管理権に藉口した団結権に基づく組合活動に対する侵害行為であるといわざるを得ない。

したがつて、これは、労組法第七条第三号の不当労働行為に当たるというべきである。

一二本件命令の主文第二項について

原告は、本件命令の主文第二項(組合との協議を命ずる部分)について、会社が組合との協議を拒否した事実はないから、このような命令を発することは誤つていると主張する。

しかし、命令は、認定にかかる東京、中部の各支部に対する会議室等の利用拒否が不当労働行為に当たると判断したうえ、命令書理由第2、3において述べているとおり、組合が会社施設を利用して教宣活動を行なう場合の基準・手続等について合理的意思の合致に至るよう労使双方が早急に協議を行なうべきことを命じており、原告がただ組合との協議に応ずることのみをもつて足りるとしているものではないのである。このような内容の救済命令を発することは、将来、原告が同種の不当労働行為を繰り返さないための予防措置として適切であると考えられるから、無意味とはいえない。したがつて、原告の主張は理由がない。

一三以上のとおり、本件けん責処分および東京、中部の各支部に対する会議室等の利用拒否は、いずれも不当労働行為に当たるというべきであるから、被告がこれと同一の判断のもとに本件命令を発したことは正当であり、右命令には、その処分内容上も違法な点が認められない。

よつて、本件命令の取消しを求める原告の請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民訴法第八九条、第九四条後段を適用して、主文のとおり判決する。

(宮崎啓一 安達敬 飯塚勝)

(別紙) 命令書

主文

一 被申立人株式会社毎日新聞社は、申立人毎日新聞労働組合所属の組合員戸塚章介、同磯貝佳身に対する昭和四三年一一月一一日付「けん責」処分を撤回しなければならない。

二、被申立人会社は、申立人毎日新聞労働組合が被申立人会社の施設を利用して教育宣伝活動(学習会の開催、映画・スライドの上映など)を行う場合における諾否の基準・手続について同組合と協議しなければならない。

理由

第一 認定した事実

一 当事者

(1) 申立人日本新聞労働組合連合(以下「新聞労連」という)は全日本の新聞、通信および関連産業の労働組合の連合体であつて、七七組合(組合員、三七、七八六名)が加盟している。

(2) 申立人毎日新聞労働組合(以下「組合」又は「本部」という)は被申立人の従業員が組織する労働組合であつて、組合員六、〇四〇名を有し、新聞労連に加盟している。そして組合は被申立人東京本社に本部および東京支部を、大阪本社、西部本社、中部本社にもそれぞれ支部を置いている。

(3)申立人戸塚章介は三一年四月被申立人東京本社印刷局養成員として入社、四二年四月社員となり同印刷部輪転課に配属され現在にいたつている。戸塚は三二年四月組合に加入、三三年組合東京支部(以下「東京支部」という)青年部書記、三四年青年部副書記長、三五年新聞労連東京地連青婦協議長、三六年支部執行委員・新聞労連東京地連書記長、三七年同地連書記長、三八年、三九年支部代表委員、四〇年~四四年支部執行委員(四二年、四三年支部賃金対策部長、四四年支部印刷分会長を兼務)に選任されている。

(4) 申立人磯貝佳身は三二年四月被申立人中部本社印刷局養成員として入社、三三年四月社員となり、同印刷部輪転課に配属され現在に至つている。磯貝は三三年四月組合に加入、三四年~三七年組合中部支部(以下「中部支部」という)青年部書記、三八年支部青年部長、三九年支部副書記長、四〇年、四一年支部書記長、四二年支部執行委員(同支部合理化対策部長を兼務)、四三年新聞労連中央委員、四四年支部執行委員(同支部印刷分会長を兼務)新聞労連中央委員に選任されている。

(5) 被申立人株式会社毎日新聞社(以下「会社」という)は、肩書地に本店を、東京、大阪、名古屋、小倉に本社、北海道に発行所を置き、日刊紙「毎日新聞」等の編集、印刷、出版、販売を業とし、従業員六、四〇二名を有する会社である。

二、組合が会社施設内で「映画・スライドの上映」「学習会」を行つた事例

(1) 映画・スライドを上映した事例

三八年以降組合行事として行われた映画・スライドの上映は下記のとおりである(業務上又は趣味的なスライドはこれ以外にも上映されていた)。そして、東京本社では四一年九月の新社屋移転以降は後記四の事件が起るまで休憩室を利用した事例がなく、中部本社では四二年一月活版部と印刷部の休憩室が設置されて以降、後記三の事件が起るまで、同休憩室を利用した事例がない。

年月

場所

内容

東京本社

三八、九

各職場休憩室

賃闘スライド

四〇、一〇

巻取職場

日中青年友好大交流のスライド(八ミリ)

四〇、一二

輪転休憩室

同右

四二、五

二階大会議室

「沖繩・小笠原返還要求四・二八海上大会報告会」スライド八ミリ

四二、一〇

同右

「ベトナムの話を聞く会」“ハノイは斗う”(スライド・八ミリ)

中部本社

三八、五

二階会議室等

ひとりっ子スライド

三八、九

輪転・活版等の職場

賃闘スライド

三九、一

第四会議室

「日本の夜明け」

四〇、一一

輪転休憩室

日韓スライドとテープ

四一、九

会議室・活版印刷職場

日中青年友好大交流のスライド

(2) 東京本社における「学習会」の事例

本部あるいは東京支部では東京本社の会議室等を利用して、三六年一二月「読者と新聞労働者」(講師、松岡洋子、開高健)の講演、三九年八月支部代表委員会が「賃金と組織」(講師、藤田若雄)の学習会、四二年一〇月支部代表委員会が「職務給」の学習会等を行つた事例がある。

しかし、同じ会社施設でも四一年九月東京本社新社屋移転後、新たに設置された「会食室」を組合が利用する場合には、会社厚生部に個人名で申込んで、例えば四三年三月以降九月まで「新聞労連在京婦人部懇談会」「活版職場青年部班会議」「平和友好祭実行委員会」等の諸会合に一〇数回も利用していた。しか「学習会」としてもこの「会食室」を利用した事例があつたか否か必ずしも明らかではない。また四三年九月九日の「新聞労連発送在京職懇」以降は人事部労務課を通じて使用を申込むようになつた。

(3) (三)中部本社における学習会の事例

中部本社では四〇年以前はほとんどトラブルもなく学習会が行われていたが、たまたま四一年一〇月一八日中部支部青年部が企画した「ベトナム戦争と労働組合」(講師、原省吾)についての学習会を開こうとしたが、会社は“外部の者が入るから”ということで会議室の使用を断つたため、この学習会は書記局に変更して行われた。そして四一年以降外部から講師を招いて行われたものは下記のとおりである。なお、このうち最後の四三年二月辻岡講師を招いての討論集会は会社が“外部の講師が入るから”“企業破壊につながる”などを理由に会議室の使用を断つたため、組合の側で、その会合を「春闘、賃上げ、合理化を討論―合同分会、東海地連学習会」と表示を書き換え、会社は事実上これを認めて開催された。

年月日

場所

テーマ

講師

四一、一、一五

二階大会議室

賃闘をとりまく情勢と賃金問題

辻岡靖仁

四一、四、八

時間外協定ついて

小栗弁護士

四一、六、一一

第五会議室

小選挙区制

森名大大学院生

四一、一〇、一〇

三階大会議室

賃金を考える会

辻岡靖仁

四二、一〇、一一

職務給

松岡静大教授

四三、二、六

合理化といかに斗うか(春斗討論集会)

辻岡靖仁

三 中部本社印刷部休憩室におけるベトナム映画の上映

(1) 四三年四月新聞労連中央委員会が「ベトナム人民支援一〇〇万円カンパと代表派遣」を決めたことに伴い、同月二九日組合本部執行委員会は組合全体としてこれに取組むことを決定した。

(2) 同年五月一〇日午後三時一五分から三〇分間程、中部支部青年部が中部本社活版部休憩室で会社の制止を聞かず、ベトナム戦争映画「アメリカの戦争犯罪」を上映した。会社はこのことについて無届、無許可の上映だとして組合を非難した。

(3) 同日午後九時頃申立人磯貝(当時、中部支部執行委員・同印刷分会輪転職場班担当)は、雲北輪転課副課長を通じ当夜の印刷部当直責任者柴田鉛版課長から輪転職場班会議を印刷部休憩室で開くことの許可を得た。午後九時三〇分頃から同職場班会議が始つたが、磯貝が、席上前記映画「アメリカの戦争犯罪」の上映を行いたいと提案、皆の賛同を得た。ところがその上映準備にとりかかつたとき磯貝は柴田課長に呼ばれ「班会議の届出は受けたが映画の上映は聞いていないので、本日はとりやめてほしい」との申入れを受けた。これに対し磯貝は「班会議の内容は組合が自主的にきめるもので、映画を中止するわけにはいかない」と反論し両者の間でヤリトリが交わされたが、折り合わないまま磯貝は印刷部休憩室へ戻つて午後九時四五分から三〇分間程前記映画を上映した。

翌五月一一日中部本社の北村人事課長は中部支部の支部長宛に、前夜、映画の上映を強行したことにつき、①政治活動の疑いが強いこと②休憩室利用の本来の趣旨に反すること③責任者の不明確な行為であり、かりに組合活動の一環だとしても正規の届出もなく、承認も与えていない組合活動であること④就業規則第七条一一号(会社施設内で許可なく、集会、演説あるいは宣伝行為をしないこと)に違反することの理由を付した「警告」を発した。また同日午前一一時三〇分頃吉本印刷部長は始末書の提出を磯貝に要求したが拒否された。その後、磯貝の上映問題について中部支部と中部本社との間で折衝が続けられたが、結局まとまらなかつた。

四 東京本社印刷部輪転課休憩室におけるベトナム映画の上映

同年六月六日午後六時頃東京支部青年部は支部執行委員会の賛同をえて、支部書記局でベトナム戦争映画「勝利はこだまする」を上映した。

ところが同日夜勤の申立人戸塚(当時支部執行委員、輪転、用紙職場班担当)は、前記の映画をさらに輪転職場で同好者を集めて上映しようと「“勝利はこだまする”を上映します。見て下さい。朝刊終了後、第二休憩室にて。執行委員」と書いたビラを輪転課第一休憩室のテレビの下に貼り出した。これを知つた東京本社印刷部当直責任者の鈴木輪転副課課長は午後一〇時四〇分頃と翌七日午前零時頃の二回戸塚を呼び上映主催の責任者が不明確なこと、戸村輪転課長からの電話の指示で正規の届出のない映写会は許されないことなどの理由をあげて上映中止を申し入れた。これに対し戸塚は責任者は戸塚自身であること、課長がダメといつているだけでは納得し難いことなどを反論し、両者の間で激しいヤリトリが交わされた。

ついで午前二時頃戸塚は鈴木副課長をたずね、先のヤリトリで興奮したことについて謝つたが、上映は行う旨を告げて別れた。そして、戸塚は朝刊印刷の作業終了後の午前四時一〇分頃から二五分間程、第二休憩室で輪転、用紙両職場の組合員約五〇名を集めて前記映画を上映した。

当日午後五時から開かれた職場交渉で、組合が会社に対し映画上映を中止させようとした理由をただしたところ、戸村輪転課長は①届出がないこと②常識の線をこえていること③政治活動であるとは断定できないが、その疑いがあると判断したことなどを挙げたが、組合は納得しなかつた。

五 磯貝、戸塚のけん責

(1) 東京本社では前記戸塚の上映行為についての賞罰委員会を同年七月一六日、一七日、九月一八日の三回、中部本社でも前記磯貝の上映行為についての賞罰委員会を同年九月二〇日、二一日、二七日の三回開催し、本人らに釈明の機会を与えた。その間、会社な本部、支部を通じ両名に対し、会社としては懲戒が目的ではなく、秩序の維持が目的であるから、両名が無届上映について遺憾の意を表明するなら、賞罰委員会において情状を酌量する旨の働きかけも行つたが奏功しなかつた。そこで東京本社と中部本社の賞罰委員会としては戸塚、磯貝の両名を就業規則にもとづく「けん責」処分に付するのが相当であると結論し、同月二六日取締役会は両名の「けん責」処分を決定した。

(2) 翌二七日、会社は「定例生産協議会」の席上、組合に対し「九月二六日の取締役会で賞罰委員会の答申にもとづき、磯貝、戸塚の両名をけん責処分に付することとした」旨を通知した。そこで組合は労働協約にもとづき、会社に異議を申入れ、労使の間で数回「交渉委員会」がもたれたが、まとまらず打切られた。

(3) 会社は同年一一月一一日付で磯貝、戸塚の両名に対し、それぞれ「けん責」処分を発令した。

六 「労協解釈専門委員会」における映画上映問題の取扱い

(1) 同年六月五日(第二回)、六月二三日(第三回)、七月二三日(第四回)の「労協解釈専門委員会」(同年四月二七日組合のゼッケン着用の取扱をめぐつて発足)の席上、会社は組合に対し前記磯貝、戸塚の上映問題を契機に、会社施設内における組合の教宣活動の許容範囲について労使双方の統一見解を出すことを提案した。これに対し組合側としても会社提案の趣旨について検討することはやぶさかではないが、正式に機関にはかつたうえで態度をきめると答えた。

その後会社は九月二八日(第五回)の同委員会の席上、この会社提案について組合本部執行委員会が早急に結論を出すよう催促した。ところが組合は第七回「労協解釈専門委員会」(一二月二六日開催予定)が開かれる直前の二三日、本件不当労働行為の救済申立を行い、翌四四年一月二二日の第八回「労協解釈専門委員会」の席上「本部執行委員会で討議した結果、本専門委員会での討議はゼッケン関連にしぼることを確認した」旨を表明し、会社提案を拒否した。

(2) この間、会社施設内での教宣活動の許否をめぐり、会社組合間の意見の対立が続き、東京本社および中部本社で以下のような施設利用をめぐるトラブルが生ずるに至つた。

七 東京支部に対する会食室、会議室の利用拒否

(1) 東京支部青年委員会が、本部支部の指示をうけて“合理化と権利問題”と題する学習会を新聞労連役員と弁護士を招き四三年八月二〇日午後六時から実施することを決め、同年八月中旬、栗原青年部長は、その会場として東京本社「会食室」の使用を会社厚生部に「活版部栗原」個人名で申込みその了承を得た。ところが、当日の二〇日午前九時三〇分頃、東京本社の高橋厚生部副部長は、組合のビラでその会合が学習会であることを知り、栗原に対し電話で「会食室の利用は飲食をともなう部会や懇親会などに限られているので、労組の会議なら労務課を通じて会議室を利用して下さい。今回は会食室利用の目的が違うようだからお断りしたい」と申入れた。

これに対し午後一時頃から前田東京支部書記長らが、続いて大久保本部書記長らが佐野人事部労務課長に抗議を申入れたところ、同課長は「学習会に会食室を利用することはその目的に反する。学習会が組合活動なら労務課に使用許可を求めてくるのが筋である」などと答えた。

そこで大久保本部書記長が会合の名目を個人名ではなく青年部委員会と改めて、再度「会議室」の使用を申込むと、同課長は「学習会に会議室を貸したことはないし、名目はどうあれ学習会であることが明らかであるから貸すわけにはいかない」と告げ、これも拒否した。このため学習会は会社施設以外の場所で行われた。

(2) 東京支部の印刷部各職場では、同年九月七日、九日、二一日の三回用紙課と輪転課の休憩室で(組合は印刷部会議室の使用を申し込んだが、会社が休憩室に使用変更してきたので)、「第九回世界青年学生平和友好祭」に参加した用紙課所属の組合員斎藤某の報告会とスライドの上映が行われた。

同月二六日東京支部執行委員会としても支部全体として上記の集会を翌二七日午後六時から同八時三〇分まで東京本社二階大会議室Bで開催することを決め、高野支部副書記長がその使用を申込んだところ佐野労務課長は「報告会に会議室を使用することはよろしいがスライドの上映については、ベトナム映画問題(磯貝、戸塚のこと)が係争中でもありこれにこれに関連し労協解釈専門委員会で組合視聴覚教宣活動における会社施設利用に関する統一見解が出るまで止めてほしい」という趣旨のことを告げた(なお、同日夜、輪転職場の岩田支部執行委員が職場集会の届出はしたが上映の届出はなしに輪転課第一休憩室でスライドに代え、八ミリ映画を上映したことからトラブルが起つた。)

(3) また翌二七日午後六時頃から同七時三〇分頃まで島田副支部長らが再び佐野労務課長に対し、無条件で大会議室を貸すよう折衝を続けたが結局時間切れで流会となつた。

八 中部支部に対する会議室、休憩室の利用拒否

(1) 同年五月一一日中部支部印刷分会が、同月一四、一五の両日、一九六八年運動方針案の学習会開催のため中部本社会議室の使用を会社に申込んだところ、北村人事課長は高田支部副書記長に対し電話で「会社は従来から学習会のための会議室使用は認めていないので、この件の申込みについて会議室を貸すことはできない」と断つた。これに対し、高田副書記長が「従来から認めていないというがいままで何ら問題なく会議室で学習会を開いている。いまさらそういうのは納得できない」と反論すると同課長は「学習会は労協九二条(組合の集会行事)の範囲外であるし、従来から言つているように同一〇三条(便宜供与)には無制限に貸すとは書いていない。もしいままでそのようなことをしていたとすれば組合が無断で使用したか虚偽の届出をして使つていたのだろう」などといつた。

学習会予定の当日一四日午前、高田副書記長が再び電話で北村人事課長に対し会議室の使用拒否の撤回を申し入れたところ同課長は「何のテーマで行うのか」と聞いたので、高田が「学習会の内容までいちいち届出る必要はないが運動方針についての学習会だ」と答えると、同課長は「運動方針案なら貸さないわけにはいかないだろう。外部の人は来ないのだな」と念を押し、結局会議室の使用を認めたので、当日と翌一五日の学習会は曲りなりにも行われた。

(2) 同年七月中旬、中部支部執行委員会は、同支部新聞対策委員会、同青年部の三者共催で原水禁世界大会を前にして同月二六日討論集会とスライドの上映を行うことを決め、ベトナム映画がとくに問題(磯貝、戸塚のこと)になつていたことから、この集会は政治的意図をもつものではない旨をとくに付記して会議室の使用を申し込んだ。これに対し北村人事課長は「申込手続に誠意が認められるが、東京では、ベトナム映画問題で賞罰委員会が開かれており労協解釈専門委員会で上映問題を討議することになつている」ということなど前記七(2)後段の東京本社佐野労務課長とほぼ同旨の理由を挙げ「討論集会は認めるが、スライドの上映のためには会議室使用を認めるわけにはいかない」と通知してきた。

このため支部は二六日の当日、討論集会は三階大会議室で行つたがスライドは狭い書記局で上映した。

(3) 同年一一月一日中部支部青年部は前記七(2)と同様東京支部の組合員斎藤某の報告集会を同月六日午後活版部休憩室(三時一〇分~四時)第五会議室(六時~八時)、輪転休憩室(九時三〇分~一〇時三〇分)で順次行うことを決め、第五会議室については会社から使用許可を得た。ところが翌二日中部本社の熊埜御堂活版部長は支部掲示板で組合の計画を知つたので、山田印刷分会長、活版職場選出の鈴木執行委員を呼び、報告集会にスライドなどの上映も計画しているか打診した。

同部長はその可能性鳴極めて濃いと判断し、山田分会長らに対し「報告集会はよろしいが、八ミリとかスライドの上映は労協解釈専門委員会で話し合つている段階だから遠慮してほしい」などとほぼ前記七(2)および前記八(2)における会社見解と同旨のことを告げ、スライドの上映についての会社施設利用を拒否した。

そして当日の六日午後二時過頃、西野青年部長らが映写機を活版部休憩室に持込んだことが契機となり、スライドの上映を強行しようとする青年部とこれを阻止しようとする会社との間に緊迫した事態が生じたが、結局、支部長の判断で報告集会だけ行われ、上映については中止されるに至つた。

以上の事実が認められる。

第二 判断

一 磯貝、戸塚のけん責

会社は、磯貝および戸塚の前記映画の強行上映はともに就業規則第七条一一号「会社施設内で許可なく……宣伝行為をしないこと」に違反し、同七〇条九号「会社または職場の統制秩序をみだしたとき」に該当するから、会社が両名に対し遺憾の意を表明するよう勧めたのにこれを拒否したことなどの事情も加味して、もつぱら企業秩序維持のため「けん責」処分を決定したものであつて、それ以外の処分理由は存在しないという。

しかしながら(ア)会社は従来第一、二(1)で認定したように会社施設内における映画・スライドの上映をその種類のいかんに関係なく許しており、格別規制を加えていたとはみられないこと、本件の場合も、会社が両名の上映した映画は“政治活動の疑いが濃い”とか“政治活動……の疑いがある”とか指摘しているほか、両名の映画の上映を特に拒否しなければならない施設の管理・運用の必要上、合理的と認められるに十分な理由を挙げていないこと、(イ)また両名の上映行為は自らの判断と責任でなされたものではあるが、既に決定した組合のカンパ活動推進の中で行われた教育宣伝活動であり、したがつて単純に磯貝又は戸塚の個人責任の追及によつて処理しうる問題とはみられないこと(ウ)会社が過去に「けん責」処分を行つた事例としては、誤刷りのまま新聞が配達されてしまつたとか、鉛版のかけ違いが新聞配布後発見されたなど職務上の義務違反ないし懈怠が相当重大とみられるような場合であつたことと対比して、両名に対する懲戒処分がたとえ「けん責」という最も軽微なものであつたとしても、いささか均衡を失すること等からすれば、会社が両名の「無届上映」「秩序違反」という個人責任の追及に名をかりて組合の教育宣伝活動の目的・内容のいかんによつてその許否を決め、ひいて組合活動に対する不公正な干渉の一手段としてこれを行つたものといわざるをえない。

二 学習会、スライド上映と会社施設の利用

(1) 組合の主張について

組合は「学習会」又は「映画・スライド」の上映に会社施設を利用することについて、明白な労使慣行が存在していると主張する。

なるほど、会社もこの種の組合集会の会社施設利用を従来黙認ないし受忍していたと認められるが、四一年一〇月以降会社はその当否は別として「学習会」などに対して厳しく規制する態度に変つてきているのであつて、この種の組合集会については会社も慣行として明白に認めている通常の職場集会(休憩時間など労働時間外を利用して行う「職場班会議」など)の場合に受けていたと同じ便宜が当然与えられる「慣行」が成立しているとまでは認められない。

(2) 会社の主張について

(ア) 会社は四三年八月二〇日組合東京支部の学習会に対する東京本社「会食室」の使用許可を取消したのは、新社屋移転後の四二年一月総務局長名で各部課長に配布した新館利用に関するパンフレット中の、「会食室は会議、部会、懇親会などで飲食を伴う場合に使用する」「普通の会議や集会には利用できない」との使用基準に反すること、従来学習会としての使用申込を受けたことも許可したこともないなどの理由によるものという。

しかし、会社のいう会食室の上記使用基準は部課長以外の一般社員まで周知徹底していたとはみられないのみならず、第一、二(2)後段に挙げた事例のように会食室がしばしば組合関係の集会にも使用されていたが、そのすべての場合必ずしも“飲食を伴う”ものであつたとは認定できないから、単に学習会であるという理由だけで会社がその使用を拒否した合理性が疑わしい。

(イ) 会社は同年九月二七日「スライド」上映に東京本社大会議室Bの使用を許可しなかつたのは、第一、六で認定したように会社施設内での組合教宣活動の許容範囲について「労協解釈専門委員会」で見解統一をはかることになつていた段階で「スライド」上映を放置することは労使の信義に反するから中止すべきだと判断したことが主たる理由で、その他その前日「スライド」上映をめぐり輪転職場でトラブルが生じたことなどの事情も考慮してとつた措置であるという。

なるほど、会社のいうように映画・スライドなどの取扱いを労使間の自主的話し合いの場たる「労協解釈専門委員会」で処理しようとしたことは適切であつたといえるであろう。しかし、同委員会による見解統一がなされるまでは組合の「スライド」上映を一切中止せよという会社の主張は事実上会社の見解だけを、おし通そうとするもので納得できない。ことに第一、七(2)の前段で認定したように、会社は同じ「スライド」を同じ九月中に三回も輪転、用紙職場休憩室で上映することを許可していたのであつて、必ずしも常にこれを中止させていたものではないことを考え併せると会社の上記主張は一貫していない。

(ウ) また会社は同年五月一四~一五日組合中部支部の学習会に中部本社会議室の使用を認めなかつたのは、学習会の名目では認めたことがないからであつて、なおこの場合“運動方針案検討”としての使用申込に対しては許可を与えているという。

しかし、第一、二(2)(3)で認定したように会社は従来組合の学習会のための施設利用を認めていたこともあり、少くとも実質的に学習会であつても他の名目で行われたものについてはこれを容認していたと認められる。そして本件の場合、学習会であるからという理由で施設管理上の必要にもとづく特段の根拠もかかげずに拒否したのは、組合活動の内容いかんによつて会社の一方的評価により組合活動を抑制する意図であつた疑いが濃い。

(エ) さらに会社は同年七月二六日原水禁世界大会の討論集会における「スライド」上映に中部本社会議室の使用を許可しなかつたことおよび同年一一月六日世界平和友好祭報告集会における「スライド」上映に休憩室の使用を中止させたことは、いずれも前記(イ)で述べた主たる理由と同旨の理由にもとづくものであるという。

しかし、これについては前記(イ)で判断したと同様である。のみならず、七月二六日の場合、会議室の使用について討論集会は認めるが「スライド」は許されないと両者を区別していた合理的理由が明らかでない。また一一月六日の場合には第一、七(2)前段で認定したように東京支部では同じ「スライド」の上映を既に三回認めていたのに中部支部では一切これを認めなかつたのであつて、このような会社の態度はいささか頑なに過ぎるとみられる。

以上(ア)~(エ)を通じて、要するに会社が組合の行う「学習会」や「映画・スライド」の上映に会社施設の使用を認めないとする主張には、施設の保存、運用、管理の点からみて合理性ないし一貫性が乏しく、このことは会社が組合のこの種の集会に会社施設が利用されることを嫌い、組合活動の内容に対する干渉を意図したもので、施設管理上合理性を欠くものといわざるをえない。

三 救済命令の主文について

そもそも組合による会社施設の利用にも施設管理上一定の限界のあることは否定しえないところであり、会社が常に組合の申し入れを無条件に承認ないし受忍すべきことを会社に命じることは適当でない。

他面会社施設を組合に利用させるかどうかを決する権限は究極的には会社側に属するとはいえ、本件のように会社が組合に対して一応その利用を許している場合に施設管理上合理的な拒否理由がないにもかかわらず、ある種の組合集会に限つてその利用を拒否することはすることは是認し難い。

従つて現時点においては組合が会社施設を利用して教育宣伝活動を行う場合の基準・手続等について合理的意思の合致に至るよう労使双方が早急に協議を行い(「労協解釈専門委員会」を活用するなど)自主的努力をするのが至当である。

第三 法律上の根拠

以上の次第であるから、会社が戸塚、磯貝を「けん責」処分したことおよび組合の「学習会」の開催「映画・スライド」の上映に会社施設の利用を認めなかつたことは、いずれも労働組合法第七条に該当する不当労働行為である。なお、組合はポスト・ノーテイスをも求めているが、本件の場合、主文の程度をもつて足るものと考える。よつて労働組合法第二七条および労働委員会規則第四三条を適用して主文のとおり命令する。

別表〈省略〉

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